「電気の仕事は好きだけど、この先ずっと現場で体を張り続けるのはしんどい」。
キャリア相談の席で、電気工事士や施工管理の方からこの言葉を何度も聞いてきました。
はじめまして、森川拓真です。
工業高校の電気科を出て、電気工事会社で約10年、太陽光発電と業務用空調の施工管理をしていました。
その後は人材紹介会社で7年、設備・エネルギー業界専門のキャリアアドバイザーをしています。
持っている資格は第二種電気工事士と1級電気工事施工管理技士です。
相談に来た方に転職先の候補として挙げると、意外そうな顔をされることが多いのが「省エネコンサルティング」です。
名前だけ聞くと、スーツ姿でデータを分析する遠い世界の仕事に思えるかもしれません。
実際には、分電盤を開けて配線を追ったことのある人ほど話が早い仕事です。
この記事では、省エネコンサルの仕事の中身から、電気の経験がどこで役に立つのか、どんな順番でキャリアを広げていけるのかまでを、制度の一次情報をもとに整理します。
目次
省エネコンサルティングの仕事とは
ひと言でまとめると、お客さんの電気やガスの使い方を調べ、ムダを減らす方法を提案して、実行まで手伝う仕事です。
提案の中身は、照明のLED化や空調の入れ替えといった設備の更新から、運転時間の見直しのようにお金をかけない改善まで幅があります。
仕事の流れ
会社によって分業の仕方は違いますが、求人票や各社の採用ページを読み比べると、おおむね次の流れになっています。
| 段階 | 主な作業 | 電気の経験が活きる場面 |
|---|---|---|
| ヒアリング | 電気代の明細や設備の一覧を集め、困りごとを聞く | 契約電力や料金メニューの読み方 |
| 現地調査 | 受変電設備、照明、空調、生産設備の稼働状況を見る | 設備の年式や劣化、配線の状態を判断する |
| 分析・試算 | 削減できる量と費用、何年で元が取れるかを計算する | 機器の消費電力と稼働時間の見積もり |
| 提案 | 設備更新と運用改善の案をまとめる | 施工できるかどうかを現実的に判断する |
| 補助金の申請支援 | 使える制度を調べ、申請書類を作る | 機器の仕様書を正確に読む |
| 施工・効果の確認 | 工事の段取りをつけ、導入後の効果を確かめる | 工程管理と安全管理 |
表のうち、半分以上は施工管理の経験がそのまま使える作業です。
特に現地調査と施工の段取りは、現場を知らない人が一番苦労するところです。
お客さんは工場やビルだけではない
省エネと聞くと工場やオフィスビルを思い浮かべる方が多いと思います。
実際の顧客は、中小企業の事務所や店舗、病院や介護施設、マンション、一般の住宅まで広がっています。
住宅向けの例をひとつ挙げます。
東京・勝どきに本社を置く会社で、電気工事業の登録を持ち、太陽光発電・蓄電池・エコキュートといった「省・創・蓄」の設備を家庭向けに提案から施工、保守まで手がけています。
社名はESCO事業から取ったそうで、事業内容には省エネシステムコンサルティングや電気工事・施工管理も並んでいます。
どんな会社なのかは株式会社エスコシステムズの会社概要ページで確認できます。
工場向けとの大きな違いは、相手が専門知識のない個人であることです。
「この家の電気の使い方なら、蓄電池を入れるとこうなります」と、図や数字を使って噛み砕いて伝える力が求められます。
同じ省エネでも、法人向けは数字の精度、住宅向けは説明のわかりやすさが特に問われる、と考えておくと選びやすくなります。
ESCO事業との違い
似た言葉に「ESCO事業」があります。
ESCO・エネルギーマネジメント推進協議会(JAESCO)の説明によると、ESCO事業者は省エネルギー効果を顧客に保証し、効果が出ずに顧客が損をした場合はその分を補塡します。
この出来高契約は「パフォーマンス契約」と呼ばれています。
省エネコンサルは、診断と提案、申請支援までで仕事が終わることもあります。
ESCO事業は、設計から施工、運転・維持管理、効果の保証まで丸ごと引き受けるのが特徴です。
求人を見るときは、その会社がどこまで責任を持つ仕事なのかを確かめておくと、入社後のギャップが減ります。
電気の知識がそのまま武器になる理由
省エネの提案は、最後は「その工事を本当にできるか」という現場の判断にぶつかります。
ここで電気の実務を知っている人と知らない人の差がはっきり出ます。
現場の目は簡単には身につかない
私が施工管理をしていた頃、他社がまとめた省エネ提案の工事を引き継いだことがあります。
資料の上では空調を入れ替えるだけでしたが、現地に行くと幹線の容量が足りず、受変電設備から手を入れる必要がありました。
工期も費用も、提案書の数字から大きくずれてしまいました。
こういうずれを最初の調査で見抜けるのが、現場を経験した人の強みです。
具体的には、次のようなところに目が行きます。
- 分電盤や配線の容量に余裕があるか
- 設備を止められる時間帯はいつか
- 搬入経路や作業スペースが確保できるか
- 古い機器の撤去にどれくらい手間がかかるか
どれも机の上の計算では出てこない情報です。
提案の精度を上げたい会社ほど、現場経験者を欲しがるのはこのためです。
電気系の資格が国の事業の専門家要件に入っている
もうひとつ、制度面の裏付けもあります。
国の中小企業向け省エネ診断事業では、診断を担当する外部専門家を募集しています。
一般社団法人環境共創イニシアチブ(SII)の令和6年度補正事業の外部専門家募集案内を見ると、専門家の要件として指定された資格には次のものが含まれています。
- 電気工事士(1種)
- 電気主任技術者(1種・2種・3種)
- 電気工事施工管理技士
- エネルギー管理士
- 建築設備士、管工事施工管理技士 など
電気工事施工管理技士は級の指定がありません。
資格以外にも、省エネ関連の実務経験10年以上など、いくつかの要件が並んでいます。
年度ごとに公募が変わるので、実際に応募するときは最新の公募要領を確認してください。
それでも、現場で取った資格が省エネ診断の世界でも通用する証拠として、この一覧は心強いはずです。
私自身、1級電気工事施工管理技士を取ったときは、まさか省エネの文脈で役に立つとは思っていませんでした。
キャリアの広がり方は入口で変わる
省エネ業界への入り方は、大きく3つに分かれます。
どこから入るかで、最初の数年の働き方がかなり変わります。
| 入口 | 主な仕事 | 向いている人 | 求められやすい資格・経験 |
|---|---|---|---|
| 施工・技術部門 | 現地調査、施工管理、アフター点検 | 現場の仕事を続けながら幅を広げたい人 | 電気工事士、施工管理技士 |
| 提案営業 | 顧客への提案、見積もり、契約 | 人と話すのが苦にならない人 | 資格不問の会社も多い |
| 省エネ診断・補助金支援 | エネルギー使用量の分析、申請書類の作成 | 数字や書類の扱いが得意な人 | エネルギー管理士、電験、実務経験 |
施工・技術部門から入る
いちばん無理のない入口です。
これまでの仕事と地続きで、職場に慣れるまでの負担が小さくて済みます。
省エネ設備を扱う会社の施工部門にいると、提案の段階から工事に関わる機会が増えます。
営業担当から「この現場、工事できますか」と相談されるうちに、自然と提案側の考え方が身についていきます。
提案営業から入る
住宅向けの省エネ機器では、営業職の求人がいちばん多く出ています。
未経験歓迎の会社も多い一方で、成果に応じて給与が変わる仕組みの会社もあります。
電気の知識がある営業担当は、お客さんから信頼されやすいのが強みです。
「工事は別の人に聞いてください」で終わらせず、その場で答えられるからです。
ただ、ノルマや訪問件数の考え方は会社によってかなり違うので、面接で必ず確認してください。
省エネ診断・補助金支援の専門職へ
法人向けの診断や補助金申請を専門に扱う職種です。
求人票を見ると、エネルギー管理士や電気主任技術者、またはエネルギー関連の実務経験3年以上を応募条件にしている例があります。
ビズリーチに掲載されていたある省エネコンサル会社の求人(2026年6月更新)では、年収800万〜1,200万円が提示されていました。
いきなりこの職種を目指すより、施工か営業で数年経験を積み、資格を取ってから移る人が多い印象です。
相談者の方にも、この順番を勧めることがほとんどです。
エネルギー管理士という次の一歩
省エネの世界で長く働くなら、目標にしたい国家資格がエネルギー管理士です。
省エネ法とエネルギー管理士の関係
省エネ法(エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律)では、エネルギーを多く使う事業者に管理体制を整える義務を課しています。
省エネ法施行令では、事業者全体で年間の使用量が原油換算1,500kl以上になると「特定事業者」に指定されます。
1つの工場や事業所で3,000kl以上なら「第一種エネルギー管理指定工場等」です。
第一種の指定を受けた製造業などの工場では、エネルギー管理士の免状を持つ人の中からエネルギー管理者を選ぶことが義務になっています。
資格を持つ人でなければ務まらないポストが、法律で用意されているわけです。
省エネ提案をする側にとっても、お客さんと同じ言葉で話せる資格になります。
試験の概要と合格率
一般財団法人省エネルギーセンターのエネルギー管理士試験制度の概要によると、免状を取る方法は国家試験と研修の2つです。
試験には受験資格の制限がありません。
熱分野と電気分野のどちらかを選んで受けられるので、電気の経験者は電気分野を選ぶのが自然です。
注意したいのは、試験に受かってもすぐには免状がもらえない点です。
交付を申請するときに、エネルギーの使用の合理化に関する実務に1年以上従事したことを示す証明書を出す必要があります。
実務の時期は合格の前後を問いません。
難しさの目安として、直近の結果を見ておきます。
令和8年度第48回エネルギー管理士試験の合格者発表によると、新規受験者(課目免除受験者を含む)は8,783人が受験し、3,019人が合格しました。
計算すると合格率は約34.4%です。
電気主任技術者などの資格を持っていても、試験の課目が免除される優遇はありません。
省エネルギーセンターのQ&Aでもそう明記されています。
電験三種を持っている方も、そこは割り切って準備してください。
転職前に確かめておきたいこと
省エネ業界は、会社ごとの差がとても大きい業界です。
同じ「省エネ提案」という求人でも、中身がまったく違うことがあります。
面接や会社説明の場では、少なくとも次の点を確認しておくと安心です。
- 顧客は法人中心か、住宅中心か
- 自社で施工するのか、協力会社に任せるのか
- 営業と技術の役割分担はどうなっているか
- 給与のうち、成果によって変わる部分はどれくらいか
- 資格取得の支援制度があるか、対象の資格は何か
最後の資格支援は、電気の経験者にとって大事なポイントです。
受験費用の補助や試験日の特別休暇、資格手当のある会社なら、働きながらエネルギー管理士を目指しやすくなります。
私が若手だった頃も、会社が受験費用を出してくれたおかげで施工管理技士に挑戦できました。
あの制度がなければ、今の自分はなかったと思っています。
まとめ
省エネコンサルティングは、お客さんのエネルギーの使い方を調べ、ムダを減らす提案から実行までを手伝う仕事です。
顧客は工場やビルだけでなく、店舗や住宅まで広がっています。
電気工事や施工管理の経験は、現地調査と施工の判断でそのまま武器になります。
国の省エネ診断事業でも、電気工事施工管理技士や電気主任技術者が専門家の要件に入っています。
入口は施工・技術、提案営業、診断・補助金支援の3つです。
まずは今の経験が活きる入口から入り、エネルギー管理士を次の目標に置くのが、私がいちばん勧めている道筋です。
現場で覚えたことは、場所を変えてもちゃんと役に立ちます。
「電気しかやってこなかった」と思っている方ほど、一度省エネ業界の求人をのぞいてみてください。
Last Updated on 2026年10月29日 by kiyo80








